自動車
RAV4の製品企画・デザイン・設計・評価
メンバーの思いを一つにした
「デザイン大部屋活動」。
MEMBER
-
自動車事業部 製品企画部
八田 康裕 -
自動車事業部 技術部
西澤 芳史 -
自動車事業部 製品企画部
井口 大輔 -
自動車事業部 技術部
大西 幸泰
STORY 1
開発から生産まで手掛けた5代目RAV4。
モノを見て「カッコいい!」と感じたとき、「このカッコ良さはどうやって生まれたのだろう」と興味が湧いたことはないだろうか。クルマの場合、「カッコいい!」とお客様に感じていただける商品を開発する上で重要なポイントがある。それは「開発メンバーの思いを一つにできるかどうか」だ。
SUVカテゴリーで世界的な人気車種となっているトヨタのRAV4。1994年に初代が登場して以来、クロスオーバーSUVのパイオニアとして市場を先導し続け、5代目は日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。
豊田自動織機は、2代目RAV4から生産に携わり、3代目からはデザイン・設計・評価の一部を担当。現行の5代目においては開発から生産まで一貫して手掛けている。本プロジェクトストーリーでは、その5代目RAV4の開発過程にスポットを当てる。そこでは開発メンバーの一体感をより高めるために、これまでにない開発手法が導入されていた。
STORY 2
造形テーマ「クロスオクタゴン」を創出。
始まりは、2つの八角形だった。
5代目RAV4の外形デザイン選考は当初、難航していた。トヨタ自動車社内や豊田自動織機から提出された多くの案の中から一旦は3案に絞り込まれたが、「“SUVのワクドキ”を表現しきれていない」という思いから、再度考え直すこととなった。
近年、各社が魅力的なSUVを数多くリリースしている。その中でRAV4が存在感を放ち続けるには、これまでの延長線上ではない、新しい挑戦がデザインに必要だったのだ。
豊田自動織機デザインチームの井口は、再び案を練り直した。その結果、交差する2つの八角形をモチーフとする「クロスオクタゴン」という造形テーマを創出。この造形テーマが決め手となり、最終的に採用されることになった。
「5代目RAV4については『SUVとしてどうあるべきか』を検討する企画段階から参加していました。その経験を生かし、ビッグフット(タイヤが大きい)、リフトアップ(車高が高い)、ユーティリティー(きちんとモノが入る)の3つを特徴とするデザインコンセプトを提案し、そのコンセプトに沿った機能美を創出する造形テーマとして、クロスオクタゴンを考案しました」(井口)
採用された造形テーマを、どのように実車として形にしていくか。新たな挑戦をこめたデザインを実現するために、開発手法そのものにも新たな挑戦を取り入れることになった。それが「デザイン大部屋活動」である。
STORY 3
クレイモデルの前で緊密にコミュニケーション。
「トヨタグループでは一般的に大部屋活動を取り入れています。大部屋活動とは、部署間のコミュニケーションをより良くするための開発手法です。製品企画、デザイン、設計、評価、生産技術などの各部署がそれぞれで開発を進め、大部屋でミーティングし、また部署に戻って開発を進める――このサイクルを繰り返していくのが、従来、我々が行ってきた大部屋活動です。私たちはRAV4の開発に当たり、その開発手法を深化させた『デザイン大部屋活動』を取り入れることにしました」
そう語るのは開発の取りまとめを担った八田だ。大部屋活動をどのように深化させたのだろうか。
「RAV4のクレイモデルが置かれたモデルルームを仕切り、デザイナーと各部門のエンジニアが日常的にコミュニケーションできるスペースをつくったのです。そうすることでデザイナーの想いをより深く理解、共有できると考えました。これによりデザインを実現するために困難な課題がでてきても、部署の垣根を越えてより一層一体となって取り組むことができ、良い結果を出せると考えました」(八田)
狙いは豊田自動織機ならではの強みを生かすことにあったと語る。
「開発から生産まで、全ての機能がコンパクトにまとまっている(同じ敷地内にある)ことが豊田自動織機の強み。当然これまでもその強みを生かし、各部署同士で行き来しながら一体感のある開発を行っていました。今回はさらに『ウチだからこそできることをやろう』と各部門のリーダーが話し合い、デザイン大部屋活動が始まったのです」(八田)
とは言え、実はその仕組みの具現化は簡単なことではなかった。クレイモデルは未発表車のデザインを具現化したものであり、かつモデルルームはそれを手掛ける唯一専用の作業場のために極めて機密性が高い。そのため基本的にはデザイナーしか入れない場所だった。モデルルーム内の機密および作業性を確保した打合せスペースの創出、適切なOA機器の準備等に加え、デザイナー以外の立ち入り、モデルルーム内で大部屋活動をスムーズに運用するためのルール作りなど、ハード・ソフト両面に様々な課題があった。デザイン大部屋を実現するために、知恵を出し合い課題を一つひとつ解消した。
「この課題の解消も、開発から生産までを一貫して手掛けている豊田自動織機だから部署間の壁を取り払うことで実現できたんだと思います」(八田)
STORY 4
ミリ単位の調整で実現したリヤドアの「くびれ」。
そしていよいよ開発がスタート。車両開発には元々「各部署のせめぎ合い」という側面が多分にある。デザイナーはカッコよさを追求したい。人間工学の性能開発担当は使いやすさを追求したい。設計担当は安全性能や造りやすさを追求したい。そのせめぎ合いに、デザイン大部屋活動は明らかな変化をもたらした。
「例えば、設計担当から『造りやすくするために、この部分をあと1mm盛りたい』という話が出たとします。その1mmによってデザインが損なわれてしまうこともあるのですが、図面だけを介したコミュニケーションではニュアンスの共有がなかなか難しい。しかしデザイン大部屋活動の場合、そういった話が出たら『じゃあクレイモデルで再現して一緒に見てみましょう』とすぐに確認ができる。やっぱりカッコ悪いね、とか、これならいける、と会話しながらリアルタイムで共有できる。これは大きな変化でした」(井口)
リヤドアはその効果が顕著に現れた部位と言えるだろう。ボデー設計担当の大西はこう振り返る。
「リヤドアの『くびれ』をつくるのにとても苦労しました。クロスオクタゴンを成立させる上で、このくびれはデザイン上の肝なんです。2つの八角形がまさにクロスする箇所ですから。しかし、リヤドアには側面衝突から乗員を守るインパクトビームという部材を入れるために、大きめの空間を確保する必要がありました。この二律背反をどうやって両立させるか。リヤドア内に収めるさまざまなパーツをミリ単位で調整しながら、インパクトビームを入れる空間を作りました。やはりクレイモデルを削る様子をじかに見ると、『このデザインはカッコいいから何としても実現させたい』という思いが強くなります。各種評価や生産技術などの他のエンジニアからも『熱』を感じましたね。みんな『カッコいいデザインを成立させるために、自分に何ができるか』と懸命に考えていました」(大西)
STORY 5
視界の良さと力強いデザインの両立。
人間工学の観点から性能開発を担当した西澤は、運転しやすい車にするため「視界を良くしたい」という熱い思いをもって開発に臨んだ。RAV4のメイン市場であるアメリカへ行き、ディーラー・お客様へのヒアリング結果や自身の現地運転体験から、特に重要に感じた後退時の後方視界を良くすることに取り組んだ。
「車両後部のサイドウィンドウを後方へ広げれば視界の課題は簡単に解決できます。しかし、それではSUVとしての力強さがなくなり、クロスオクタゴンという造形テーマを守れません。また、ウィンドウ周りの内部には様々な部品が配置されており簡単には広くできません。そこで、構造的に成り立つデザインと視界を高いレベルで両立させるため、ウィンドウ前方や下部の形状を工夫することで運転しやすい視界を実現しました。視界検討ではシミュレーションをベースに室内モックアップ(実物大の室内模型)も使用することで、各担当者が認識を合わせながら進めることができました。デザイン大部屋活動だからこそ達成できた視界の良さだと思います。」(西澤)
STORY 6
苦労しているシーンを、互いに目の当たりに。
常に直接顔を合わせて議論を重ね、それぞれが自分の思いを出し尽くし、ミリ単位でディテールを追求した。そうした過程があっただけに、発売された5代目RAV4が世界的にヒットし、さらに日本カー・オブ・ザ・イヤーも獲得できた時のメンバーたちの喜びはとても大きかった。
「スタートは1本の線から描いた2つの八角形。その線が最終的に世界へとつながったことが、すごくうれしかった。受賞はトヨタ車として10年ぶりで、ここ数年は海外車勢が受賞していたという流れもあったので、日本車として返り咲いて受賞できたという意味でも感慨深かったですね」(井口)
「人間工学の担当としてこれまでにさまざまな車種を担当してきましたが、今回のRAV4は一番濃く関わったクルマです。お客様にとって使いやすい商品にするために、自分のやりたかったことをしっかりと織り込むことができました。そのクルマが受賞という形で認められたのは本当にうれしかったです」(西澤)
「私にとってデザインの初期段階から最後まで関わり続けたクルマは、このRAV4が初めてでした。だから思い入れもひとしお。受賞の知らせを聞いた時は、小躍りするぐらい喜びました(笑)」(大西)
「メンバーそれぞれが互いに苦労しているシーンを目の当たりにしながら取り組んだので、他部署の仕事もより尊重できるようになったのではないかと思います。今回ほど『メンバーが成長した』と感じられたプロジェクトはありません。そこで生まれた商品の成果が販売台数や受賞という形で現れたのは、とてもうれしかったですね」(八田)
STORY 7
「部品屋」ではなく「クルマ屋」として。
このプロジェクトを通じて得たものを、これからどう生かしていくか。最後に未来への思いを一言ずつ語ってもらった。
「担当する人間工学の観点はもちろんですが、それに加えて『お客様にとって一番うれしいことは何か』を常に考える大切さを実感できたプロジェクトでした。クルマを見る視野が広がったので、それを次の開発でも発揮していきたいと思います」(西澤)
「エンジニアはつい自分の担当範囲ばかり気にしがちですが、全体を見ることの大切さをこれから入る社員に伝えていきたい。クルマ全体を見ることのできる環境が、豊田自動織機にはあります。後輩みんなに『部品屋』ではなく『クルマ屋』として思考する設計者になってほしいと思います」(大西)
「次のRAV4に向けての良いアイデアが若手デザイナーから出るよう、次世代社員の育成に取り組んでいきます。若手デザイナーたちには『困ったり、分からないことがあったら、製品企画や設計や評価の人に相談すればいいんだよ』と伝えていきたい。みんな一緒になってつくっているんだよ、と。これは私自身が今回のプロジェクトから得た実感です」(井口)
「今回、デザイン大部屋活動はとてもうまくいきました。デザイナーとエンジニアたちはこれまで以上に思いを一つにすることができました。みんな自分の担当範囲だけでなく、他部署の仕事の中身をすぐそばで見ることで大きく成長でき、開発の醍醐味もより感じられたと思います。これを途切れさせてはいけない。さらに一体感を醸成していくための環境づくりを考えていきます。そして製品企画部門としては、新型車開発のより上流から携わり、豊田自動織機の提案したアイデアが企画に盛り込まれることを目指していきます」(八田)