物流ソリューション
ファンダランデ社製クロスベルトソーターの日本初導入
進化した物流ソリューションを、
日本のお客さまに。
MEMBER
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トヨタL&Fカンパニー
物流ソリューション事業室
井出 吉彦 -
トヨタL&Fカンパニー
物流ソリューション事業室
太田 貴久
STORY 1
物流ソリューション事業を成長の柱に。
通販サイトで商品を注文すると自宅に届く。海外からの荷物もちゃんと受けとることができる。これらはもはや当たり前のこと、と言っても差し支えないだろう。その「当たり前」を支えているのが物流だ。電気や水と同じように、物流は人々の生活に欠かせないインフラとなっている。
急速に伸長するeコマース市場を背景に、物流の重要性はさらに増している。その中で豊田自動織機は「物流ソリューション事業」を今後の成長の柱の一つと位置付け、強化に取り組んでいる。
豊田自動織機の物流分野における取り組みは長い歴史を持つ。世界シェアNo.1のフォークリフトメーカーとして、その周辺領域である物流システム事業に参入したのは1986年のことだった。無人搬送車(AGV)やユニット式自動倉庫などの物流機器を提供するほか、多様化する物流改善ニーズをお客さまと共に解決する物流ソリューション分野において事業領域を広げてきた。
そしてさらなる事業強化に向け、オランダのVanderlande Industries Holding B.V.(以下、ファンダランデ社)、米国のBastian Solutions LLC(以下、バスティアン社)を買収。今回紹介するプロジェクトストーリーに登場するのは、ファンダランデ社製品の日本初導入に取り組んだエンジニアたちである。
※シェアは自社調べ
STORY 2
日本最大規模の物流センターへの導入。
ファンダランデ社は物流機器やソフトウェアを自社開発・生産し、物流ソリューション事業をグローバルに展開している。特に小売業や小包・郵便事業向けの物流システムに強みを持ち、空港の手荷物搬送システムにおいても世界有数の企業だ。
買収によって同社の物流機器・システムを日本のお客さまに提供することが可能となった。その第一歩として、同社の主力製品であるクロスベルトソーターを導入するためのプロジェクトが立ち上がった。
クロスベルトソーターとは、物流センターなどで荷物を品種別や発送方面別など、所定の場所に仕分けする機械。荷物を左右に送り出す機能が付いたベルトコンベヤを想像してもらえば分かりやすいだろう。長いものでは全長2kmにも及ぶ。
「ファンダランデ社のクロスベルトソーターは、いろいろな形や大きさの荷物をフレキシブルに取り扱えるのが特長です。荷物の長さに応じてモーターの速度を自動で調整して仕分けするなど、複雑な自動制御を行うことができます」
そう語る井出は、導入の検討段階でさまざまな技術的課題を解決する主担当を務めたエンジニアだ。実は、海外の物流機器・システムは、そのままでは日本に導入できない。技術面で検討すべき項目が数多くあるのだ。
「例えば、電波法。この製品はソーターを無線で制御する機能が搭載されているのですが、周波数帯によっては電波法違反になることもあります。そのため既存の装置をそのまま使えるのか、代替品を選択すべきか、という検討が必要になります。これはほんの一例です。労働安全衛生法や各省庁が出すガイドラインも含めてチェックし、ファンダランデ社のクロスベルトソーターを日本に導入するに当たってコンプライアンス違反が発生しないか、徹底的に調査・検討を行いました」(井出)
初の導入先は、世界最大規模の国際輸送物流企業が大阪に立ち上げる、日本最大規模の物流センターに決まった。しかし製品自体の技術的課題を解決するだけでは、導入を実現できない。事前準備として何よりも重要な取り組みを進める必要があった。それは、コミッショニングエンジニア(以下、CE)の育成である。
STORY 3
技術があれば、言葉の壁は乗り越えられる。
CEは、立ち上げ前に現場で機器を調整する役割を担うエンジニアだ。
「調整と聞くと『最後に短期間で行う仕上げ』といった作業を想像されるかもしれませんが、ファンダランデ社のクロスベルトソーターの場合、そのイメージとはかなり異なります。導入先に応じた複雑な自動制御ができる分、膨大な調整作業が必要になります。機械に入力するさまざまなパラメーターを一つ一つ適正なものにしたり、プログラム自体を作ったりするなど、最低でも3カ月間は要する作業です」(井出)
CEには高度かつ幅広い技術と知見が求められるため、ファンダランデ社では5週間にわたるトレーニングプログラムを用意している。同社のオランダ本社で行われるそのプログラムに、誰を派遣するか。井出は、太田を抜擢した。
太田は入社以来、11年にわたって自動倉庫の電気設計を担当。開発工程でいうとCEの上流に当たる領域だ。現場での調整経験はないが、CEになるための技術・知見のベースを備えている。しかし、太田には弱点があった。
「英語があまり話せなかったんです。学生時代から英語は好きではなくて」(太田)
トレーニングプログラムは英語で行われる。それでも井出が太田を選んだのには、理由があった。
「技術というのは、世界どこでも普遍なんです。太田よりも英語が堪能なエンジニアは他にいたかもしれません。それでもやはり技術面に秀でた太田が、ファンダランデ社製品に対応できる当社初のCEに最もふさわしいと考えました。技術があれば、言葉の壁は乗り越えられる。そう信じて抜擢しました」(井出)
太田は英会話スクールに通い、海外で支障なく生活できるだけの英語力を何とか身に付け、オランダへ渡った。
STORY 4
オランダでのトレーニング、ポーランドでの実践。
ファンダランデ本社でのトレーニングプログラム。太田は、中国、インド、アルゼンチンなど、さまざまな国から訪れたエンジニアたちと机を並べ、英語による講義を受けた。
「元々英語が話せない段階からのスタート。英会話スクールに通ったとはいえ、専門性の高い技術についての講義を英語で聞くのはやはり大変でしたね。ついていくのが精一杯でした」(太田)
一方で、自らが入社以来、培ってきた技術への自信も感じた。
「言葉では苦労しましたが、技術面の理解は問題ありませんでした。これまで仕事を通じて学んできたことへの手応えを実感しました」(太田)
そしてトレーニングプログラムの終了後は、ポーランドにある物流センターで8週間にわたり、実際にクロスベルトソーターを立ち上げる案件も経験した。
「ファンダランデ社に勤めるインド人の先輩CEと一緒に現場で仕事をして、立ち上げまでの一連の流れを学ぶことができました。トレーニングだけではなく、実際の現場を体験できたのはとても有意義でしたね。日本での立ち上げに向けて貴重な経験となりました」(太田)
STORY 5
一人で取り組んだ、コロナ禍での調整。
オランダでのトレーニング、ポーランドでの実践を経て、いよいよ大阪で日本初の導入案件が始まる。しかしその時、想定外の事態が起きた。新型コロナウイルスの世界的流行である。
「当初はインド在住の先輩CEが来日し、立ち上げをサポートしてくれる予定でした。しかしコロナのためにそれができなくなったんです」(太田)
太田は一人でクロスベルトソーターの調整を担うことになった。来る日も来る日も広大な物流センターの中を歩き回りながら、日本に初めて設置された機器と対峙し続けた。
「問題に突き当たった時は、インドの先輩CEやオランダ本社の専門部署にテレビ電話もしくはWeb会議で相談しながら進めました。インドとオランダ、それぞれに時差があるため、連絡の取れる時間が限られるのがもどかしかったですが、とにかく日々できることに粘り強く取り組みました」(太田)
「初めてクロスベルトソーターを試運転した時のことは今も良く覚えています。荷物がちゃんとクロスベルトソーター上を回って送り出された時は感動しました。とても大変な調整期間でしたが、振り返ってみると一人で取り組めたのはよかったかな、と思うところもあるんです。もしインドの先輩CEが予定通り来日できていたら、おそらく多くの場面で彼に頼ってしまっていたと思います。自分一人で全て調整したことで細かい部分まで理解が進み、CEとして自信が持てるようになりました」(太田)
STORY 6
やってみせ、やらせてみせて、フォローする。
立ち上がった大阪の物流センターは本格運用が始まっている。日本から海外へ。海外から日本へ。このプロジェクトで導入したクロスベルトソーターの上を無数の荷物が日々、流れている。
「さまざまな言語の文字が入った段ボールや、きれいにラッピングされた小包など、絶え間なく荷物の流れる現場を見ていると、達成感や誇りのような感情がこみ上げてきます。生活に不可欠な『物を届ける』ということに自分たちが導入した機器が役立ち、社会に貢献している――そんな実感が湧いてきますね」(井出)
豊田自動織機で初めてファンダランデ社のクロスベルトソーターに対応できるCEとなった太田は、2人目のCE育成に取り組んでいる。そんな太田に井出は頼もしさを感じている。
「当社でずっと大切にされてきた言葉の一つに『やってみせ、やらせてみせて、フォローする』があります。太田は今回、座学だけでなく、ポーランドで『やってみせ』を経験することで、大阪での立ち上げ成功につなげることができました。図らずもファンダランデ社が同じ手順での教育体制を整えていたのです。今度は太田が、後輩に『やらせてみせて』を経験する番
。このサイクルを繰り返すことで、CEが増えていってくれたらと期待しています。そしてファンダランデ社の製品によって提案できる幅が広がったので、小包の取扱量が社会全体で増加する中、より進化した物流ソリューションを日本のお客さまに提供していきたいと考えています」(井出)