繊維機械
バングラデシュでの紡機市場開拓
お客さまの未来、さらには、
社会の持続可能な
未来も見据えて。
MEMBER
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繊維機械事業部
営業部
髙谷 洋行
STORY 1
自社製品を売るやりがいと誇り。
輸出額の8割以上を衣類品が占め、「世界のアパレル工場」とも呼ばれるバングラデシュ。数多くの紡績企業や縫製企業があり、さまざまなファストファッションブランドの生産拠点として機能している。高谷はこの国を舞台に、紡機(繊維の束によりをかけて糸を紡ぐ機械)と織機(たて糸とよこ糸を交差させて布を織りあげる機械)の営業活動に取り組んでいる。
アメリカへの留学を経験するなど、学生時代から強い海外志向を持っていた高谷。就職活動も海外で活躍できる仕事を軸に進めた。その中で豊田自動織機への入社を決めたのは「自社製品を売ることができる」点に魅力を感じたからだ。
「社会に出たら海外市場でモノを売る仕事をしたいと考えていました。その中でもこだわりたかったのが、自社製品を扱うこと。開発・製造から販売、さらにはアフターサービスまで一貫して自社で手掛けている製品であれば、自信を持って売ることができるし、やりがいや誇りも大きいと思ったんです」
入社後はメンテナンス用部品の販売などを行うアフターサービス部門に配属。
「売って終わりではなく、アフターサービスまでしっかり行うことが当社の強み。お客さま志向の精神を身に付ける上でとても勉強になりました」
そして3年目に営業部門へ。就職活動時に思い描いていた仕事を、バングラデシュ市場で実践することになった。
STORY 2
省エネ機器普及のための低利融資制度。
バングラデシュにおいて紡機の市場は特に大きい。しかしその市場は、主に中国製の機械で占められていた。そこをいかに開拓していくかが、高谷のミッションだ。
「ネックは、価格の差です。中国製と比較すると当社の製品は高価なんです。もちろんその分、高品質、高生産性、卓越した操作性、省エネルギーなど、付加価値も高いのですが、これまで中国製を使ってきたバングラデシュ企業の皆さんにその価値をどう伝えるかが課題でした。検討の土俵にすら、なかなか上げていただけない状況でしたから」
さまざまな企業を訪問し、提案活動を続ける中、大きなチャンスが到来した。商社を通じて「バングラデシュでも有数の大手縫製企業が、紡績事業に参入するために紡機の導入を計画している」という情報が入ったのだ。
高谷は早速、商社と協力して大手縫製企業への提案を開始。しかし価格がやはりネックとなった。そこで高谷は、省エネファイナンスを利用した販売方策を実践することにした。
「バングラデシュは、洪水、サイクロン、高潮、干ばつなどが頻繁に発生する、気候変動が激しい国です。そのため政府は、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出を抑制する施策を積極的に実施しています。省エネファイナンスもその一つ。これは政府が国際協力機構(JICA)の支援で立ち上げた、省エネ機器普及のための低利融資制度です。省エネ機器のリストに載っている製品を購入する企業は、市中金利よりも低い金利で融資を受けることができます。この制度の利用をお客さまに提案することで、価格への心理的なハードルを下げ、商談を前に進めることができました」
STORY 3
メリットを具体的な数字でアピール。
豊田自動織機の紡機導入について、まずは検討の土俵に上げてもらうことに高谷は成功した。しかし商談はまだスタートラインに立ったところ。大切なのはここからだ。
「商談の過程で最も意識したのは、お客さまにコストへの考え方を転換していただくことでした。初期投資のコストではなく、ランニングコストで考えるべき、と提案し続けました。『当社の機械なら、これだけ消費電力が削減できます。それはつまり、これだけ電気料金が削減できるということです。確かに初期投資は中国製よりも高価ですが、長年使っていくうちにこれだけのメリットが出てきます』と具体的な数字を出しながら説明を重ねました」
さらに豊田自動織機の製品ならではの機能の高さ、特に汎用性についてアピールした。
「糸には太さを表す『番手』という単位があり、いろいろな太さの糸を作るお客さまの場合、番手ごとにローラーを回すギアを交換する手間がかかります。当社の高速リング精紡機RX300Eには電子ドラフトというモーター制御の装置が搭載されており、ファンクションパネル上で番手の設定を行うことできます。その制御の精密さと、ギア交換にかかる人手や時間を省くことができるというメリットも丁寧に説明しました」
STORY 4
生産現場の見学を提案。
コストや機能については納得を得ることができた。しかし大手縫製企業はまだ懸念を示していた。
「組立工程の拠点が日本ではなく、インドのキルロスカ トヨタ テキスタイル マシナリー(以下、KTTM)であることを懸念されていました。バングラデシュにおいて『日本製』は高い信頼を得ています。もちろん実際にはKTTMにおいても日本と同等の品質管理体制を整えているので製品の品質に問題は全くありません。お客さまが抱いている印象の問題でした」
基幹部品は日本製であること、日本と同等の品質管理レベルであることを、高谷は懸命に伝えた。しかし口頭ではなかなか不安を払拭できない。そこで高谷は次の手を打った。KTTMの見学を提案したのだ。
「実際に生産現場を見ていただくことが、最も確実に安心感を伝える方法だと考えたのです。アテンドする前には、どのようなポイントをどのようにアピールするか、KTTMと綿密に打ち合わせました。そして見学当日。トヨタ生産方式を徹底した生産現場、作業者への安全教育を行う『安全道場』や現地スタッフの創意工夫を引き出す『改善道場』など、日本と同様の管理体制であることをお客さまに見ていただくことができました。また、KTTMの社長であった当社役員にも協力を仰ぎ、役員自ら、お客様に会社の紹介などを実施していただきました。お客さまの反応はとても良かったですね」
STORY 5
こみ上げてきた感謝の思い。
KTTMの見学は大手縫製企業の懸念を払拭する決定的なアピールとなり、功を奏した。さらに追い風が吹いた。
「環境意識が世界的に高まったことが、私たちにとって追い風となりました。当社の製品を導入することは、お客さまにとって『省エネ製品を導入して気候変動問題の解決に貢献している』という販売先へのアピールにもなります。バングラデシュの繊維企業がつくる衣類品は特に環境意識の高いヨーロッパの国々への輸出が多いので、省エネ製品の導入が企業価値を高め、競争力の向上につながる効果は大きいものでした」
そして、ついに大手縫製企業から大型案件の受注に成功した。
「成約の瞬間にこみ上げてきた思いは、喜びはもちろんですが、『感謝』が強かったですね。いろいろな方の協力があったからこそ受注できた案件だと実感しています。上司や先輩からはお客さまへの提案方法についてたくさんのアドバイスをもらいました。KTTMの皆さんには見学の準備や当日対応に尽力いただきました。皆さんの思いを結果につなげられたことが、何よりもうれしかったです」
この受注が呼び水となり、バングラデシュにおける引き合いが増加していく。豊田自動織機の製品導入を価格面でためらっていた多くの企業の間に「あの会社が導入したなら、うちも検討してみよう」という動きが広がったのだ。その後、高谷はさまざまな企業から受注を得ることができた。
STORY 6
ニーズをくみ取ることが存在意義。
バングラデシュ市場での経験は、高谷を営業担当として大きく成長させた。
「以前は価格交渉をすることが営業担当の仕事だと思っていました。しかしバングラデシュ市場を経験することで、価格交渉するだけでなく、お客さまのニーズ、不安、置かれている状況をくみ取り、柔軟に解決策を提案することが営業の仕事であると学ぶことができました。ネット上でもモノが購入できる時代に、なぜ私たちはお客さまと商談を行うのか。それは、お客様のニーズをくみ取る必要がある、重要な製品を扱っているから。お客様との深いコミュニケーションに営業担当の存在意義があると、今、確信しています」
これからも高谷は、単純な価格競争に乗るのではなく、付加価値の提案を続けていく。そこにはお客さまの未来、さらには社会の持続可能な未来を見据える視点がある。
「今後もお客さま志向を忘れず、営業活動にまい進していきます。SDGsのことを考えることもあります。私たちの提案する製品によって新興国の繊維産業で省エネが進み、それが結果として新興国の経済発展、さらには持続可能な世界の構築につながっていくのであれば、非常にうれしく思います」