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エンジン

建設機械用エンジンの開発

未体験の分野で、世界初に挑む。

MEMBER

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    エンジン事業部
    技術部
    楠本 明彦

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    エンジン事業部
    技術部
    宮原 康次

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    エンジン事業部
    技術部
    本城 文紀

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    エンジン事業部
    技術部
    田中 健太

STORY 1

コア技術を新たな分野へ。

近年、自動車業界で電動化比率が高まっているように、産業用機械の分野においても電動化技術を活用した環境にやさしい商品へのニーズが高まっている。

豊田自動織機には、既にエンジン式ハイブリッドフォークリフトの開発・量産実績がある。ディーゼルエンジン技術、モーター技術、PCU(Power Control Unit)といった、これまでに蓄積してきた電動化のコア技術を新たな分野に展開できないか、常に機会をうかがっていた。

そんな折、建設機械業界でトップクラスの規模をもつ日立建機が、環境に優しく、エネルギー効率の良い駆動方式を模索し、オープンイノベーション活動を展開。豊田自動織機のコア技術を提案し、協業によって「建設機械向けディーゼルハイブリッドシステム」の開発がスタートした。

STORY 2

3つの「初」への挑戦。

建設機械向けディーゼルハイブリッドシステムの開発プロジェクトは、3つの「初」への挑戦でもあった。

1つ目は、「初」の連携。
このプロジェクトでは、産業用コンポーネント事業室、エンジン事業部、技術・開発本部開発第二部、エレクトロニクス事業部、トヨタL & Fカンパニーという分野の異なる5つの組織体が連携して一つの商品を開発した。これは豊田自動織機の長い歴史の中で初めてのこと。今回紹介するプロジェクトストーリーは、その中におけるエンジン事業部の奮闘にスポットを当てるものである。

2つ目は、「初」の参入。
エンジン事業部では、自動車向けディーゼルエンジンの開発・生産の他、産業分野向けエンジンの開発・生産も行っており、当社製フォークリフトをはじめ、 発電機、マリン向けなど幅広く展開し、その信頼性や環境性能はお客さまから高く評価されている。しかし、建設機械の分野に参入するのは、初めてのことだった。

そして3つ目が、世界「初」。
今回開発する出力帯の建設機械向けエンジンには、排出ガス中のNOx(窒素酸化物)の低減装置として、一般的に尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)が搭載される。この場合、燃料以外に尿素水を消費する。今回は、尿素SCR無しで、排出ガス規制をクリアするエンジンの開発を目指した。実現すれば、出力74kWクラスで世界初となる。この技術開発は今回紹介するストーリーの最大のポイントであり、後ほど詳述する。

STORY 3

建設機械を運転するための免許を取得。

建設機械用エンジンの開発は、若手メンバー数人の小さなチームで始まった。

「私たちにとって新分野なので『そもそも建設機械用エンジンとはどのようなものか』から把握する必要がありました。まずは勉強会からスタート。これまでの知見が生かせない点も多く、手探りの状態が続きました」と振り返るのは、エンジン全体の設計を担当した宮原。

使用用途が異なるとはいえ、エンジンはエンジンである。これまでの知見が生かせないとは、どういうことなのだろうか。今回のプロジェクトでエンジン開発の取りまとめ役を担った楠本はこう解説する。

「建設機械の動きは、主に3つあります。クローラーによる走行。上部旋回体の回転。バケットによる掘削。これらは全て、油圧で動きます。その油圧ポンプを回す動力源がエンジンとなります。アクセルを踏む強さでエンジン出力を調整するクルマとは、要求されるエンジン特性がまったく違うのです。建設機械のエンジンは、回転を先に上げて、その状態で負荷に応じて燃料を噴き、必要な出力を生み出す仕組みになっています。クルマで例えるなら、アップダウンの激しい道路を、アクセルの調整で一定の速度にコントロールし運転しているようなものなのです」(楠本)

開発メンバーは、エンジン特性の違いを自分の体で感じるために、建設機械の運転作業に必要な免許も取得した。

「5日間にわたる学科・実務の講習を受けて取得しました。実際にバケットによる掘削などを体験すると『こういうシーンでパワーが必要なんだ』といったことが手に取るように分かり、とても有意義な機会だったと実感しています」(楠本)

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STORY 4

急峻な負荷変動をどう再現するか。

開発メンバーは勉強会や免許取得を通じ、建設機械用エンジンに関する基礎知識を身に付けることができた。しかし本格的な開発のスタートに向け、準備すべきことがまだあった。評価実験を行うことのできる環境の構築だ。

「自動車用エンジンの評価実験、エンジンを動力計につなぎ、回転や負荷を掛けて行います。建設機械用エンジンも同じ方法で……とはいきませんでした。激しく変化する油圧の負荷に対しての性能評価を行う必要があるのですが、その急峻な負荷変動を、従来の動力計では再現できなかったのです」(宮原)

検討した結果、建設機械に搭載されている油圧システムをそのまま評価設備としてエンジンベンチに設置することが確実という結論に至った。

「油圧ポンプユニット、コントロールバルブ、作動油タンク、さらにハイブリッドシステムとしてモーター制御装置、大容量電源装置、モーター冷却水循環装置など、大型装置を多数設置する必要がありました。1カ月以上かかりましたが、これでようやくエンジンを回せる環境が整いました」 (楠本)

開発にあたって今回のベースエンジンに選んだのは、1KDエンジンだ。

「数あるベースエンジンの中から、要求性能の高さと実績を鑑みて選びました。世界157の国・地域の方々に使われているSUVや商用車の他、フォークリフトにも搭載される信頼性の高いエンジンです」(楠本)

まずは試しにベースエンジンそのままの状態で急峻な負荷変動を掛けてみた。そのシーンを宮原は忘れていない。

「大量の黒煙を吐き出したんです。予想はしてましたが、目の当たりにして『これは大変な開発になるぞ』と改めて実感しました」(宮原)

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STORY 5

NOx排出量を10分の1に。

今回のエンジン開発における最大の課題は、尿素SCRを使わずに排出ガス規制をクリアすることだった。

「尿素SCRとは、排出ガスに含まれるNOxを低減させる装置です。今回開発する出力帯の建設機械用エンジンでは通常、この装置が使われています。しかし私たちは尿素SCRを使わずにNOxを低減し、オフロード法(特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律)2014年基準をクリアする、世界初となるシステムの開発を目標としました。それは建設機械業界に後発で打って出る会社として技術力をアピールするために、何としても成立させたいという思いからでした」(楠本)

尿素SCRは、尿素水を使ってNOxと化学反応を起こすことでNOxを窒素と水に還元する仕組みになっているため、定期的に尿素水を補充する手間がかかる。さらに建設機械は、インフラが整わない場所で作業する場合もあるため、補充用尿素水の保管タンクを追加で搭載する必要が出てくる。ユーザーにとって、尿素SCRの使用はランニングコストを押し上げることにもなるため、「尿素SCRレスエンジン」のニーズは必ずあると確信していた。

しかし、目標となる排出ガス規制をクリアするには、ベースエンジンが対応するNOx排出量を1 0分の1にする必要がある。高い壁への挑戦が始まった。

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STORY 6

金属を腐食させる水、という難題。

開発チームはNOx低減のために、低圧クールドEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)というシステムを導入した。

「低圧クールドEGRは、NOxの生成を抑えるシステムです。この技術自体は多くのクルマで使われていますが、元々NOx低減と燃費向上が相反関係にあるディーゼルエンジンにおいて、燃費を犠牲にせずにNOx低減を実現するため、試行錯誤を重ねました。最終的には、マフラーから排出される不活性ガスの一部を冷却して、ターボ経由で燃焼室に送り込む方法でより多くのNOx生成を抑えられることが分かったのです」(宮原)

しかし開発チームには、まだ解決すべき難題が残されていた。凝縮水の対策である。

「低圧クールドEGRは、運転条件によって金属を腐食させる凝縮水が発生します。凝縮水によってターボチャージャー(過給機)が腐食すると重大な不具合となるため、それは何としても防がなければなりません」(楠本)

開発チームは、あらゆる面から対策を講じた。

「凝縮水が発生しにくい制御の追究。凝縮水が発生しても排出する構造の導入。そして最後の砦として、凝縮水に強いターボチャージャーの開発。これらにより、凝縮水対策についてもめどが立ちました。実現できたのは、ターボチャージャーを自社内で設計・製造しているからです。ターボチャージャーの設計部門に相談し、難度の高い腐食対策にも知恵を絞ってもらい、独自技術で乗り越えることができました」(楠本)

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STORY 7

発想を変えて乗り越える。

「NOx排出量を10分の1にする」という高い目標に挑み、1年がかりでようやく技術的な成立性にめどが立った。しかし、ここで思いも寄らぬ壁に突き当たる。コストである。

「建設機械はクルマのように生産台数の多い世界ではないので、部品がある程度高くなることは予想していました。しかしデザインレビューを前にコスト見積りをしたところ、予想を大きく上回る額が算出されたのです」(宮原)

尿素SCRを使わないことで、他社より価格的に有利になるはずだった。しかし新設計の部品がどれも高価となり、大胆な見直しが必要になった。この壁をどう乗り越えるか。開発チームが活路を見出したのは「新たな仕入先の開拓」だった。

「当社はさまざまな自動車部品メーカーから部品を仕入れていますが、自動車業界では今、低燃費化に向けて『より小さく』『より軽く』を追求しています。一方、建設機械の世界ではエンジン重量はさほど問題になりません。重いことでウエイトとしての役割を果たす面さえあります。そこで発想を切り替えて、仕入先の選択肢を自動車業界以外にも広げたのです。調達部門の協力を得ながら、『大きくて重い部品でも、低コストでつくることのできるメーカー』を探し、訪問・交渉を重ねながら選定しました。この取り組みの結果、コストの課題もクリアすることができたのです」(宮原)

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STORY 8

まるで上級者コースの急斜面。

クルマではありえない状況も想定し、検証する必要があった。

「建設機械は、傾斜地で作業するケースもあります。坂道を走行するだけではありません。傾いたまま、上部旋回体をぐるぐると回し、作業を行うわけです。自動車エンジンにおいても傾斜に対する信頼性は確かめていますが、それ以上に厳しい環境下での確認が必要です」(宮原)

日立建機から求められた性能は、全方位35度傾けた状態で正常に運転できること。

「35度の傾斜は、スキー場でいうと上級者コースの急斜面。その角度に全方位傾けて、エンジンオイルが噴き出すようなことがないかを確認しました」(楠本)

「そのための試験設備も独自に作りました。肉を串に刺してローストする機械がありますよね?あれを大きくしたようなものです。ベースエンジンが元々SUV車でも使われているものなので問題はないはず、と想定していましたが、何しろ急な角度です。実際に全方位に傾けて、正常に運転できることを確認できた時は、ほっとしました」(宮原)

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STORY 9

エンドユーザーの声を直接伺う。

数々の壁を乗り越え、ついに豊田自動織機初の建設機械用エンジン、そして世界初の尿素SCRレスエンジンが完成。技術・開発本部開発第二部が開発したモーター、エレクトロニクス事業部が開発したPCUなどと共に、「建設機械向けディーゼルハイブリッドシステム」として、日立建機のハイブリッド油圧ショベルZH200-6に搭載された。

「日立建機の皆さんがZH200-6を使っているエンドユーザーを訪問する機会があり、私も同行させていただきました。『山奥で作業をすることが多いので、尿素水を補充しなくてよいのはとても助かる』『以前は2日に一度給油していたけど、3日に一度に延びた』という声を直接伺うことができ、まさにそう感じていただきたいと思って開発に取り組んできたのでうれしかったですね。日立建機の方は『エンジニアの方が自ら直接エンドユーザーの声を聞きにくることは珍しい』とおっしゃっていました。我々としても、エンドユーザーの生の声を聞くことができ、貴重な機会でした」(宮原)

「宮原君は今回のプロジェクトを通じて、設計の他、調達・品質・営業に関連した仕事も経験し、さらにはエンドユーザーの声を聞く機会にも恵まれました。これだけありとあらゆることに取り組めた経験は、きっと次の開発に役立つと思います」(楠本)

宮原自身も、次の開発を見据えている。

「新しいことにたくさんチャレンジさせてもらい、エンジン開発担当として非常に良い経験ができました。また、数多くの部署が絡んだプロジェクトだったので、人とのつながりが広がりました。この人脈は私にとって大きな財産となっています。例えば以前はモーターのことはあまり分からなかったのですが、今回のプロジェクトでモーターの専門家との接点ができ、今もアドバイスをもらったりしています。自分一人でできることには限界があるので、広い人脈ができたことは、今後の大きな可能性につながると感じています」(宮原)

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STORY 10

電動化時代におけるエンジンの重要性。

このプロジェクトを通じて成長できたのは、開発に参加したメンバーだけではない。豊田自動織機のエンジン事業全体にとっても、未来への大きな一歩となった。エンジンの先行研究・技術開発を推進する部署の本城はこう語る。

「私たちの部署では電動化も含め、エンジンの未来への可能性を追究しています。建設機械用エンジンのプロジェクトに私たちは参加していませんが、得られた知見は共有しています。この知見を積極的に生かし、エンジンのさらなる燃費向上や排出ガス低減につなげたいと考えています」(本城)

電動化と聞くと、EV(電気自動車)を思い浮かべる方もいるかもしれないが、それは数ある電動車のうちの一つにすぎない。実際にはHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池自動車)など、さまざまな種類がある。その中でエンジンが担う役割の重要性を本城は強調する。

「市街地を走るパーソナルユースの車両では、EVの普及が加速していくと予想されています。しかし一方で、私たちがエンジン開発を担う商用車や産業用の車両は、非常に厳しい環境で、厳しい使われ方をします。オフロードも砂漠も、灼熱の地域も寒冷地も、たくさんの荷物を積んで、長い距離を走るわけです。そういった車両分野においてはエネルギー密度が電気に比べて数十倍高いガソリンや軽油を燃料とするエンジンを動力源とすることは非常に合理的、効率的であり、そのエンジン本体のさらなる改良が求められています。世界中のお客さまに、さまざまなニーズに適したパワートレーンシステムを提供することが私たちの使命。『排出されたCO₂を再利用したカーボンニュートラル燃料でのCO₂フリーの実現』や『ディーゼルエンジンに最適なHVを組み合わせて、革新的な燃焼でのゼロエミッション実現』を目指し、日々チャレンジを続けています」(本城)

そのチャレンジを成功させる鍵は、若手が握っていると本城は語る。

「私たちの部署では新しい技術について、若手にアイデアを話してもらう機会を定期的に設けています。エンジンの進化には私たちが積み重ねてきた知見に加え、若手の柔軟な発想が欠かせませんから」(本城)

その若手メンバーの一人である田中は、若いうちから挑戦できる風土を実感している。

「私たちが取り組んでいる研究開発は、豊田自動織機の2030年ビジョンの中で柱の一つになっている『クリーン・ゼロエミッション』にも直結しています。こうしたテーマに最前線に立って挑戦できることに大きなやりがいを感じています。自社内でコンプレッサーやターボチャージャーの開発を行っていることも豊田自動織機の強み。この強みを生かして、部署間で協力し合い、未来のエンジンをつくっていきたいですね」(田中)

モノづくりを基盤とする企業のエンジニアとして、技術力で社会に貢献したい。時代の波に乗るだけでなく、自らの力で時代を切り開いていきたい――こうしたエンジニアたちの情熱を原動力に、 豊田自動織機のエンジンは今も進化を続けている。